高齢者詐欺・迷言連発(詐欺)
言い慣れているのか、私への説明も淀みなく早口でまくしたてる山口に、素直に感心していた。そして後半の小難しいコトワザみたいなのは理解できないが、思い返してみれば山口はヒントを小出しにしていたんだ。
新幹線の中から見る外の風景が後を追うように、山口の言葉も徐々に頭の中に入ってきて形を成してきた。
得体が知れないが、何かすごい。
でも本当に言われた通りに新規客に対応すれば、会員になってくれるのだろうか。
私は半信半疑でしたが、その心配は杞憂に終わりました。
信じられないくらいに新規客が会員になっていきました。90%以上の獲得率です。
最初は山口の助言を参考に作戦を練っていましたが、時間と共にオリジナルの言葉を交えていく余裕まで生まれていました。
入社当時は詐欺行為に嫌悪感を覚えて、やる気が失せていましたが、私の考えた言葉にコロリと騙されていく新規客に対して快感すら覚えるようになります。
新規客対応に1ヶ月くらい経った頃、山口から呼び出されました。
1ヶ月前とは違い、どこか尊敬にも似た眼差しで山口を見ています。
「新規対応には慣れた感じだね。
じゃあ、今度は『継続』に移行しようか」
『継続』とは、会員がウチの情報を聞き、再び入金させる作業のことになる。
ウチの情報とは、もちろん当たらない情報のことだ。
「新規の場合は、ウチの内情がわからない客からの問い合わせだから比較的簡単に入金させられるが、継続は全然違うぞ」
山口の言葉の通り、新規とは訳が違う。
信じて入金し、実害を出した会社を再び信頼させるのだ。
だが、人を騙すことによってドーパミンが爆発する快楽を知ってしまった以上、この先を知りたいという欲求には勝てません。
そして、この行為が私を助けるのであれば、多少の踏み台は仕方がないと自身に言い聞かせます。
「十人十色。この言葉は理解できるが、百人百色。この言葉は理解できない。
はたして本当に、百人百色まで細分化されたボキャブラリーが人間にあるだろうか?」
またしても山口から、難解な台詞が飛び出した。
2020年09月01日 21:01
投稿されたコメントはありません